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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)370号 判決

控訴人 桜井定次郎

右訴訟代理人弁護士 外池泰治

右訴訟復代理人弁護士 土橋修丈

被控訴人 益満雅晴

被控訴人 長廣敏晴

主文

一  原判決主文一項、三項及び五項を、次のとおり変更する。

1  控訴人と被控訴人益満雅晴との間で、原判決別紙第一物件目録記載の土地の賃料が、昭和五七年七月一日以降一か月金七万二二七六円であることを確認する。

2  被控訴人益満雅晴は、控訴人に対し、金二七万九九〇九円及びその内金である別表三の(3)欄(イ)ないし(ヘ)に記載の各金員に対し、それぞれ対応する同別表(4)欄(イ)ないし(ヘ)記載の日から完済まで年一割の割合による金員を支払え。

3  控訴人と被控訴人長廣敏晴との間で、原判決別紙第二物件目録記載の土地の賃料が、昭和五七年四月一日以降一か月金一万七八七三円であることを確認する。

4  被控訴人長廣敏晴は、控訴人に対し、金三万四九〇一円及びその内金である別表四の(3)欄(イ)ないし(ヘ)に記載の各金員に対し、それぞれ対応する同別表(4)欄(イ)ないし(ヘ)記載の日から完済まで年一割の割合による金員を支払え。

5  控訴人の被控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

二  原判決主文二項及び四項は、訴えの取下げにより失効した。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの負担とする。

四  この判決の一項2及び一項4並びに三項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人(原判決主文二項及び四項で認容された部分の訴えは当審において取下げられた。)

1  原判決主文一項、三項、五項を次のとおり変更する。

(一) 控訴人と被控訴人益満との間で、原判決別紙第一物件目録記載の土地(以下、第一土地という。)の賃料が、昭和五七年七月一日以降一か月金七万九九四五円であることを確認する。(当審において確認を求める始期を減縮した。)

(二) 被控訴人益満は、控訴人に対し、金一一七万一九〇二円及び内金二〇万一四二五円に対する昭和五二年一月一日から、内金二三万一二二二円に対する昭和五三年一月一日から、内金二一万四九三〇円に対する昭和五四年一月一日から、内金一八万一九〇二円に対する昭和五五年一月一日から、内金一七万六六三六円に対する昭和五六年一月一日から、内金一六万五七八七円に対する昭和五七年一月一日からそれぞれ完済まで年一割の割合による金員を支払え。

(三) 控訴人と被控訴人長廣との間で、原判決別紙第二物件目録記載の土地(以下、第二土地という。)の賃料が、昭和五七年四月一日以降一か月金一万九六三五円であることを確認する。

(四) 被控訴人長廣は、控訴人に対し、金二五万五〇二九円及び内金四万二六三七円に対する昭和五一年一〇月一日から、内金五万一九六七円に対する昭和五二年一〇月一日から内金五万〇二七一円に対する昭和五三年一〇月一日から、内金四万三八二四円に対する昭和五四年一〇月一日から内金三万五八一六円に対する昭和五五年一〇月一日から、内金三万〇五一四円に対する昭和五六年一〇月一日からそれぞれ完済まで年一割の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

3  1項(二)、(四)及び2項につき仮執行の宣言

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

一  控訴人の請求原因

1  控訴人は、第一土地及び第二土地を、いずれも普通建物(住宅)所有の目的で、期間を二〇年として、第一土地については、昭和三七年一〇月一日以降被控訴人益満に対し、賃料年額金一二万一〇八〇円、毎年六月及び一二月の各末日限り六か月分前払い、第二土地については、昭和四六年九月二七日以降被控訴人長廣に対し、賃料年額金五万五五三六円、毎年九月及び三月の各末日限り六か月分前払いの各約定で、それぞれ賃貸した。

2  その後の第一土地及び第二土地の価格、公租公課の昂騰、付近の賃料との均衡上、被控訴人益満については原判決別表(一)①欄、被控訴人長廣については原判決別表(二)①欄記載の各金額を上回る金額が適正賃料となったので、控訴人は、被控訴人らに対し、それぞれ、昭和五一年から同五七年まで、毎年、右各①欄記載の各金額を上回る金額をもって賃料を増額する旨の意思表示をしたが、右各年の増額請求の効果は、被控訴人益満については各年七月一日に、被控訴人長廣については各年四月一日にそれぞれ発生した。

しかるに、被控訴人益満は原判決別表(一)②欄のとおり、被控訴人長廣は同別表(二)②欄のとおりそれぞれ弁済供託したにすぎなかったところ、控訴人は、原判決後、被控訴人益満からは同別表(一)⑤欄記載の金員及びこれらに対する借地法所定の利息、被控訴人長廣からは同別表(二)⑤欄記載の金員及びこれらに対する借地法所定の利息(すなわち、それぞれ原判決主文二項及び四項で認容された金員全額)の各弁済を受けたので、控訴人が未だ弁済を受けていない賃料及び利息は、被控訴人益満については当審における控訴人の求める裁判1項(二)、被控訴人長廣については同項(四)のとおりである。

3  よって、控訴人は、被控訴人益満に対しては、昭和五七年七月一日以降の第一土地の賃料が一か月金七万九九四五円であることの確認を求めるとともに、昭和五一年七月一日から同五七年六月三〇日までの適正賃料から弁済を受けた金員を控除した残額合計金一一七万一九〇二円及びそのうち各期の未払賃料に対する各最終弁済期(毎年一二月三一日)の翌日から各完済まで借地法所定年一割の割合による利息を支払うよう求め、被控訴人長廣に対しては、昭和五七年四月一日以降の第二土地の賃料が一か月金一万九六三五円であることの確認を求めるとともに、昭和五一年四月一日から同五七年三月末日までの適正賃料から弁済を受けた金員を控除した残金合計金二五万五〇二九日及びそのうち各期の未払賃料に対する各最終弁済期(毎年九月末日)の翌日から各完済まで前記利息を支払うよう求めた。

二  請求原因に対する被控訴人らの答弁

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、適正賃料額及び未払賃料額は争うが、増額の効果発生の日を含めて、その余は認める。

3  同3は争う。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因事実は、控訴人主張の賃料が適正であること及び未払賃料額を除き、すべて当事者間に争いがないところ、右争いのない事実のように被控訴人らにおいても昭和五一年以降同五七年まで毎年にわたり相当と認める賃料としていずれも前年を上回る賃料の弁済供託を続け、原判決後更に追加支払いをした事実と、《証拠省略》を合わせ考えると、本件にあっては、第一及び第二土地の賃料は、昭和五一年以降毎年分について、各土地価格、公租公課の上昇及び比隣の賃料に比較して不相当となったため増額されるべき状況にあったものと認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。そうすると、控訴人のなした各賃料増額の意思表示により、第一及び第二土地の賃料は、右請求にかかる賃料額の範囲内で、前記期間中、第一土地については毎年七月一日時点で、第二土地については毎年四月一日時点で、客観的に適正と認められる金額まで増額されたものである。

二  そこで、適正賃料額について検討するに、この認定に供すべき直接的な証拠として、前記甲第七号証(不動産鑑定士奥津敏夫が控訴人の依頼に基づいて裁判外で行った第一及び第二土地の賃料の評価書。以下、奥津評価という。)、原審における鑑定人吉田隆男の鑑定の結果(以下、吉田鑑定という。)及び当審における鑑定人田坂勇の鑑定の結果(以下、田坂鑑定という。)があるので、これらを個々に検討してみると、次のとおりである。

1  吉田鑑定は、まず、同鑑定のいう差額配分法、利回り法、賃貸事例比較法により、第一及び第二土地の昭和五七年四月一日現在の相当賃料を試算している。

そのうち、差額配分法については、標準地価格を求め、これから第一及び第二土地の個別的要因に基づく減価分を控除し、底地権割合を四〇パーセントとして右各土地の底地権価格を算出したうえ、期待利回りを年二パーセントと設定して正常実質賃料(対象地の経済的価値に即応した適正な純賃料と公租公課との和)を算定し、他方、被控訴人らが昭和五七年四月一日現在で相当賃料として供託している賃料額を実際支払賃料とし、右正常賃料と実際支払賃料の間に生じた差額について、同鑑定のいう折半法、三分の一法、権利割合法により、それぞれ右差額の二分の一、三分の一及び四〇パーセントを右実際支払賃料に加えた金額を算出し、これをもって昭和五七年四月一日当時の差額配分法による適正支払賃料とするものであり、これによると、折半法では第一及び第二土地とも一か月一平方メートル当り金一〇二円、三分の一法では第一土地が同金八一円、第二土地が同金八三円、権利割合法では第一土地が同金八九円、第二土地が同金九一円になるとしている。

利回り法は第二土地についてのみ試みられているが、前記昭和五七年四月一日現在の底地価格に地価変動率を乗じて昭和四六年九月二七日当時(最終賃料合意時点)の底地価格を算出し、これによって右当時の約定純賃料(実際支払賃料から公租公課を控除したもの)を除し、その結果得られた〇・〇〇四九を年当りの底地利回りとしてこれを昭和五七年四月一年現在の第二土地の底地価格に乗じ、その結果に右現在の公租公課を加えた金額を算出する手法によるものであって、これによると、昭和五七年四月一日現在では、第二土地の試算賃料は一か月一平方メートル当り金六二円になるものとしている。

賃貸事例比較法では、六例を検討し、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正、地域要因比較をしたうえ、これらに若干開差があることから、事情補正を要しない四例の中庸値として一か月一平方メートル当り金七九円を得て標準地の比準賃料とし、これに第一、第二土地の個別的要因比較を施して、第一土地については一か月一平方メートル当り金七一円、第二土地については同金六八円を賃貸事例比較法による昭和五七年四月一日現在の試算賃料としている。

以上のように三種類の手法により賃料額を算出したうえ、吉田鑑定は、本件においては差額配分法によるものの平均値と比準賃料の中庸値をもって昭和五七年四月一日現在の適正継続支払賃料とするのが相当であるとし、これによると、第一及び第二土地とも一か月一平方メートル当り金八〇円が適正賃料になるものと結論付けている。その他の時点については、昭正五七年四月一日時点を基準として、地価変動率及び消費者物価指数の中間値によって時点修正を施し、その結果、別表一の(1)及び(5)欄記載のように各時点の賃料額を得ている。

2  奥津評価でも、差額配分法、利回り法及び賃貸事例比較法により、まず、昭和五七年四月一日時点での試算賃料が算出されているが、その結果は、差額配分法では第一土地が一か月一平方メートル当り金一一四・六八円、第二土地が同金一〇六・四一円であり、吉田鑑定の差額配分法による試算賃料より高額になっているが、その主な理由は、第一及び第二土地の価格を吉田鑑定より高く評価していること並びに期待利回りを年二・五パーセントとしていることにある。利回り法(その手法は吉田鑑定と同様であり、むしろ純賃料割合法と称されるべきものである。)は第二土地について試みられており、これによる昭和五七年四月一日現在の賃料は、一か月一平方メートル当り金六三円とされている。吉田鑑定との間に多少の差があるのは、第二土地の価格の差に由来するものである。賃貸事例比較法では、五例を比較対象地に選び、これらと第一及び第二土地とを比較して、いずれも昭和五七年四月一日当時一か月一平方メートル当り金九〇円を比較法による場合の試算賃料としている。しかして、奥津評価では、右の三種類の試算賃料のうち、賃貸事例比較法による比準賃料を重視し、他の試算賃料は参考とするに止めて、その結果、昭和五七年四月一日現在の第一及び第二土地の適正支払賃料を比準賃料と同額である一か月一平方メートル当り金九〇円と決定し、これを基準として、地価変動率、消費者物価指数の中間値を用いて各時点の賃料変動率とし、その結果、適正賃料を別表一の(2)及び(6)欄記載のとおりとする旨結論付けている。

3  田坂鑑定は、差額配分法と、同鑑定のいう純賃料割合法(吉田鑑定及び奥津評価における利回り法と同じ手法)により、まず、昭和六〇年四月一日時点における賃料を試算している。差額配分法では、底地割合を四〇パーセントとする点は吉田鑑定及び奥津評価と同じである。期待利回りは奥津評価の採用する年二・五パーセントをとらず、吉田鑑定と同じ年二パーセントを採用している。更に、第一及び第二土地の経済的価値に即応した賃料との差額を求めるべき実際支払賃料として、昭和四六年九月二七日の最終合意時点における約定実際支払賃料を採用しているが、この点は、被控訴人らがみずから相当と認めて供託した金額を採用する吉田鑑定及び奥津評価の双方とも異なる点である。なお、差額の配分割合は、二分の一法を採用している。そのほかは吉田鑑定及び奥津評価と同様の方法により算出し、差額配分法による昭和六〇年四月一年時点の試算賃料を、第一土地については一か月一平方メートル当り金九二円、第二土地については同金九三円とし、なお、消費者物価指数、公租公課の上昇率、土地価格の上昇率等を総合勘案して得た変動率に基づいて、昭和五七年四月一日時点では、第一土地については同金八五円、第二土地については同金八六円とするものである。純賃料割合法では、昭和四六年当時の純賃料割合を第一土地については年〇・二六パーセント、第二土地については年〇・六八パーセントと算出し、この割合と昭和六〇年四月一日時点で評価した第一及び第二土地の底地価格及び公租公課の額とを用いて、右時点の同手法による試算賃料を、第一土地については一か月一平方メートル当り金五一円、第二土地については同金七八円と算出している。しかして、田坂鑑定は、右両手法により得られた試算賃料のうち、差額配分法による賃料を採用して、昭和六〇年四月一日現在の適正継続賃料を第一土地については一か月一平方メートル当り金九二円、第二土地については同金九三円とすべきものとし、これに、前記の変動率を乗じて、各時点の適正賃料を、別表一の(3)及び(7)欄記載のとおりとする結論を示している。

三  以上が、適正賃料額の認定に供すべき直接的な証拠の状況である。そこで、これらの証拠について更に検討を加えると、まず、差額配分法については、吉田鑑定及び田坂鑑定によれば、第一及び第二土地の経済的価値に即応した賃料を算出する場合に底地価格に乗ずるべき利回りは、本件にあっては年二パーセントとするのが相当であること、及び奥津評価の前提とする第一、第二土地の昭和五七年四月一日時点の評価額は高きに過ぎるものと認められ、右認定を覆えすに足る証拠はないから、これらの点で、奥津評価は採用し難いものといわなければならない。ただ、吉田鑑定にあっては、被控訴人らが相当と認め供託中の賃料額を実際支払賃料として採用しているが、この点は、田坂鑑定が採用するように、最終合意時点である昭和四六年九月二七日の約定支払賃料によるのが相当と考えられる。そこで、この点を修正したうえ吉田鑑定の手法により差額配分法による賃料を試算する(吉田鑑定書一三ページ(4)の金四四万四〇〇〇円及び金一二万四九五六円をそれぞれ金一二万一〇八〇円及び金五万五五三六円と改めたうえ右(4)から一四ページ(7)までの計算を行ない、かつ、同一九ページD記載のように平均値をとる。)と、昭和五七年四月一日時点で、第一土地については一か月一平方メートル当り金七四・一三円、第二土地については同金七七・七三円になる。

次に、純賃料割合法(吉田鑑定及び奥津評価のいう利回り法)による試算賃料についてみるに、前記各鑑定及び評価によれば、昭和四六年九月当時の最終約定純賃料の底地価格に対する割合は相当低いが、右時点と本件各増額請求にかかる時点との間に生じた経済状態の変動に鑑みると、本件にあっては、純賃料割合法により試算した賃料を適正賃料の決定において重視するのは相当でないものと認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

更に、賃貸事例比較法についてみると、《証拠省略》によれば、奥津評価で比較対象とされている五例のうち四例は、いずれも控訴人が他に賃貸中の土地であり、しかも、他に控訴人がその周辺で賃貸している土地について賃料増額の協議が調わないため右事例地のように比較的高い賃料額になっていないものが相当数あることを認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はないから、これらの事例を比較の対象として採用した奥津評価は、相当でないというべきである。

以上の検討の結果によれば、本件の証拠上評価時点を昭和五七年四月一日とする場合の適正賃料算定の資料に供すべきものとしては、田坂鑑定の差額配分法による試算賃料(第一土地について一か月一平方メートル当り金八五円、第二土地について同金八六円)、吉田鑑定について前記修正を施した差額配分法による試算賃料(第一土地について一か月一平方メートル当り金七四・一三円、第二土地について同金七七・七三円)及び吉田鑑定による比準賃料(第一土地について一か月一平方メートル当り金七一円、第二土地について同金六八円)が残ることになり、これらの間には、相当程度の差があるのである。しかし、まず、両差額配分法の間の開差についてみると、右各鑑定には、前記のように修正すべき点を除けば、その手法において格別問題とする点はなく、試算の過程において用いられているある程度の裁量的な数値についても、いずれもその合理的な範囲を逸脱しているものとは認められないから、両者は、適正賃料の認定にあたり平等の比重をもって評価されるべきである。また、比準賃料については、それが本来各事例の個別的な要素に左右されやすくその修正にも限界が存在することを認めざるをえないとしても、本件にあっては、専門的知識経験を有する者のした試算として格別の不合理な点を認めることはできないので、適正賃料の認定については、差額配分法による試算賃料と同等の比重を与えられてしかるべきである。そこで、これらの試算賃料を右のように評価すべきものとし、その間の妥当な調整額として中庸値をとると、別表一の(4)及び(8)欄に記載したように、第一土地については金七六・七一円、第二土地については金七七・二四円になる(なお、《証拠省略》によれば、被控訴人長廣は、第二土地を賃借するに際し、名義書替料として控訴人に対し少なくとも金五五万円(多額でも金一一〇万円)を支払っていることを認めることができるが、右支払いが賃料前払いの性質を有しこれを本件各増額時点の適正賃料の認定においてまで斟酌すべきものであることを認めるに足る証拠はないので、右事実は以上の認定を左右するものではない。)。右金額に、当事者間に争いのない第一及び第二土地の契約面積を乗ずると、第一土地の昭和五七年四月一日当時の適正月額賃料(支払賃料)は金七万二二七六円、第二土地のそれは金一万七八七三円になる。そして、第一土地について求めるべき適正賃料は、各年七月一日現在のものであるが、四月一日現在と七月一日現在との間に有意な差があることを認めるに足る証拠はないので、第一土地の昭和五七年七月一日現在の適正賃料も、一か月金七万二二七六円であると認められる。

四  その余の各時点の適正賃料は、これを算出すべき各種の変動率が考えられるが、本件にあっては、最終約定賃料との差が本件各増額時点の初期のものについて不相当に大きくなることを避けるため、前記各鑑定及び評価によって認められる変動率のうち地価変動率(昭和五七年を一とすると、同五一年〇・四六七、同五二年〇・四八七、同五三年〇・五三、同五四年〇・六三七、同五五年〇・八一七、同五六年〇・九四五)を昭和五七年七月一日(第一土地)又は同年四月一日(第二土地)時点の前記適正支払賃料に乗じて算出するのが相当であると認められるから、この計算をすると、別表二記載のとおりとなる。

そうすると、まず、第一土地の昭和五一年七月一日から同五二年六月末日まで及びその後の同様の一年間の賃料は、別表三の(1)欄記載のとおりとなり、これから当事者間に争いのない各期間についての供託ないし弁済金額(同表(2)欄。原判決別表(一)②及び⑤欄の各金員の和)を控除すると、その差額は、別表三の(3)欄記載のとおりとなる。

次に第二土地については、昭和五一年四月一日から同五二年三月末日まで及びその後の同様の一年間の賃料は、別表四の(1)欄記載のとおりとなり、これから当事者間に争いのない各期間についての供託ないし弁済金額(同表(2)欄。原判決別表(二)②及び⑤欄の各金員の和)を控除すると、その差額は、別表四の(3)欄記載のとおりとなる。

五  以上によれば、控訴人の本訴請求(減縮後のもの)は、被控訴人益満に対しては別表三の(3)欄(ト)記載の合計金二七万九九〇九円の未払賃料と、その内金である右別表(3)欄(イ)ないし(ヘ)の各金員に対するそれぞれの最終弁済期の翌日である同表(4)欄(イ)ないし(ヘ)記載の日から完済まで借地法所定年一割の割合による利息の支払い及び昭和五七年七月一日以降の第一土地の賃料が一か月金七万二二七六円であることの確認を求める限度で理由があり、被控訴人長廣に対しては、別表四の(3)欄(ト)記載の合計金三万四九〇一円の未払賃料と、その内金である右別表(3)欄(イ)ないし(ヘ)記載の各金員に対するそれぞれの最終弁済期の翌日である同別表(4)欄(イ)ないし(ヘ)記載の日から完済まで前記年一割の割合による利息の支払い及び昭和五七年四月一日以降の第二土地の賃料が一か月金一万七八七三円であることの確認を求める限度で理由があるが、その余は理由がないので棄却を免れない。

よって、これと異なる原判決(主文一項、三項及び五項)は不当であり、なお確認請求について一部始期の減縮があったことも合わせて、これを右のとおり変更することとし、更に、原判決主文二項及び四項は訴えの取下げにより失効したのでその旨を明らかにすることとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 加藤英継 笹村將文)

〈以下省略〉

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